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Kubernetes 第2の10年:単一クラスタ運用から統合管理の時代へ

KubeCon Japan 2025 開催地日本からのレポート:いま、Kubernetesの次なる進化が始まっている。

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単一クラスタ時代の終焉、マルチクラスタが当たり前に

Kubernetesの最初の10年は、「単一クラスタをいかにうまく運用するか」がテーマでした。

しかし、KubeCon Japan 2025ではっきりと見えたのは、これからの10年が「統合管理」の時代であるということです。

CNCFの2024年の調査によると、49%の企業が本番環境で4つ以上のKubernetesクラスタを運用しています。

もはや「マルチクラスタにすべきかどうか」という議論は過去のもの。今の課題は「どう管理するか」です。

マルチクラスタが不可避な理由

  • レイテンシやデータローカリティに配慮した地理的分散
  • セキュリティ・法規制に対応するための環境ごとの分離
  • クラウドベンダー間のコスト最適化
  • 冗長化による障害リスクの軽減

にもかかわらず、現状のKubernetesクラスタはお互いの存在を知りません。

「クラスタ名」や「クラスタID」といった基本情報さえ、Kubernetesには標準で存在しないのです。

管理地獄:「リストのリスト」問題

Kaslin Fields氏のセッションでは、マルチクラスタ管理の現状を「リストのリスト地獄」と表現していました。

  • OSSのクラスタ管理ツール:KubeFleet、OCM、Karmada、KubeAdmiralなど
  • マルチクラスタ対応ツール:ArgoCD、KubeVela、Istio、Kueueなど
  • クラウド提供のサービス:GKE Fleet、Azure Kubernetes Fleet Managerなど

それぞれが独自のクラスタインベントリ(管理対象のクラスタ一覧)を持ち、連携のためにユーザーが手作業で接着コードを書くという非効率な状態です。

標準化のブレイクスルー

Kubernetes's next decade timeline

Kubernetes SIG Multiclusterチームは、これに対して2つの新しいAPIで解決を図っています。

1. ClusterProfiles API(KEP-4322

  • v1.28以降のアルファ版
  • 「クラスタインベントリ」を標準形式で管理可能にするCRD(カスタムリソース定義)

2. Multi-Cluster Services API(KEP-1645

  • ベータ版(AWS Cloud MapやAntreaなどが実装)
  • 複数クラスタ間のサービス通信を、シングルクラスタと同じ感覚で行えるようにする

Appleが見せた統合プラットフォームの進化段階

Appleの発表では、クラスタ管理の成熟度を以下の4ステージで表現していました:

バージョン

アプローチ

主な構成

V1

手動運用

Crossplane、ArgoCDなど

V2

テナント中心API

YAMLベース、基本的なスキーマバリデーション

V3

スキーマ重視

Pklテンプレート、CI統合

V4

統合プラットフォーム

汎用APIサーバー、Kubernetesネイティブなラベリング

技術基盤の進化(1.32以降の新機能)

Fields氏が紹介した、今後の統合管理を支える注目機能:

Feature

Status

Multi-Cluster Impact

機能

ステータス

意義

Dynamic Resource Allocation (DRA)

v1.32でベータ

AI/LLM向けの精密なリソース割当が可能に

Gateway API

v1.3.0(2025年4月)

複数クラスタにまたがるネットワーク標準化

In-Place Pod Resize

v1.33でベータ

リソース調整の効率化

Aokumoの視点:スケール時代のプラットフォーム設計

私たちAokumoでは、AnsibleからArgoCDベースのマルチクラスタデプロイへの移行を進めています。

これからの運用に向けておすすめする構成:

  • Crossplane:クラウドリソースの統合管理
  • Karpenter:インテリジェントなノード自動プロビジョニング
  • ArgoCD:GitOpsによるマルチクラスタ管理
  • Kyverno:統一ポリシーの強制

これらのツール選定は、「統合管理という思想」に根差したものです。

「KubernetesをKubernetesで管理する」時代へ

Kubernetesがアプリケーション管理を変えたように、いま私たちはKubernetes自体をどう管理するかという段階に入っています。

ClusterProfilesやMulti-Cluster Services APIといった標準化、

GoogleのMCO(Multi-Cluster Orchestrator)などの取り組みは、真の統合管理を実現するための土台になりつつあります。

プラットフォームチームへの提言

今すぐできること:

  • ArgoCDによるGitOps管理にシフトする
  • 「ハブ・クラスタ」構成で統合設計を意識する

中長期の備え:

  • ClusterProfiles APIの導入を早めに検討
  • AIワークロードへの対応(DRAなど)を準備
  • Gateway APIベースの設計で将来的な柔軟性を確保

まとめ:次の10年の主役は「統合」

Kubernetesの最初の10年は「コンテナをどう動かすか」を学ぶ期間でした。これからの10年は、「Kubernetesそのものをどう動かすか」が主題になります。

マルチクラスタ運用はもはや例外ではなく、標準になりつつあります。それに備えて、標準に準拠した統合管理体制を築けるかどうかが、将来の競争力を左右します。

あなたの組織では、マルチクラスタ運用の課題にどう取り組んでいますか?

今後の最適な管理アプローチについて、ぜひ意見交換しましょう!

デモ相談はこちらからどうぞ https://aokumo.io/jp/book-demo/