KubeCon Japan

KubeCon + CloudNativeCon Japan 2025: 開催地日本からのレポート:クラウドネイティブの“始まり”

エッジコンピューティングからAIプラットフォームまで、今まさにクラウドネイティブの進化が加速している――会場で体験したその最前線をお届けします。

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Younes Hairej6 min read
KubeCon Japan 2025

2025年6月、東京で開催された「KubeCon + CloudNativeCon Japan 2025」は、開幕前にすでに満席。会場はどこも活気にあふれ、インフラの未来についての熱い議論が交わされていました。3日間のカンファレンスを通じて見えたのは、「クラウドネイティブが成熟した」というよりも、「本格的な始まりを迎えた」という確信です。

Kubernetesは“どこにでもある”現実へ

会場を歩けば、Kubernetesの使い方に大きな変化が起きていることがわかります。もはやウェブアプリケーション向けに限らず、あらゆる用途に対応する“ユニバーサルな制御プレーン”へと進化しています。

このような事例が示すのは、Kubernetesは「コンテナオーケストレーター」から「現代のコンピューティング基盤」へと変貌を遂げているという事実です

和の精神:日本のOSS(オープンソース)への貢献が加速

今回のKubeConで驚きだったのは、日本企業がオープンソースへの貢献に積極的だったことです。「和の精神(The Spirit of Wa)」と題されたキーノートでは、以下のような事例が紹介されました:

  • LINEヤフー:AI向けスケーラブルな分散型ベクトルデータベース「Vald」をOSSとして公開。単なる研究用ではなく、実運用に耐えるプロダクトです。
  • Google Japan:Kubernetesの履歴を分析・可視化するツール「Kubernetes History Inspector」をα版でリリース。

これらは本気のプロダクトであり、日本のクラウドネイティブ業界の成熟と自信を象徴しています。

Passion of Japan - KubeCon

エッジで動くKubernetes:データがあるところで処理を行う

エッジコンピューティング関連のセッションでは、2ノードの高可用クラスターが工場や船舶、携帯基地局などで稼働している事例が共有されました。これにより、データセンターに送らず、データが存在する場所で処理を行うという流れが明確になっています。

これは単なるレイテンシー対策ではなく:

  • データを国外に出せないという法的制限
  • 帯域コストの削減
  • ネットワーク遅延が許されないリアルタイム性の要求

といった、実務的・経済的な要因が背景にあります。

AIの普及:KubernetesはAIの土台へ

特に印象的だったのは、あらゆるセッションでAIとの統合が語られていたことです。専用のMLトラックに限らず、AIはもはやKubernetes上に「当たり前に乗るもの」 となっています。

注目セッション:

  • LLMのマルチホスト推論:複数ノードでの分散モデル提供は今や標準。Kubernetesネイティブなスケーリングとリソース管理が求められています。
  • Envoy AI Gateway:BloombergとTetrateによる新OSS。サービスメッシュの思想をAIトラフィックに応用。
  • Kubeflowの進化:CNCFとの統合も進み、機械学習のライフサイクル全体を支える本格的な基盤に成長。

CNCFランドスケープ:ただのツール集から「プラットフォームエコシステム」へ

CNCFの最新ランドスケープを見れば、各プロジェクトは単独ではなく、自然に統合されたエコシステムを形成していることが分かります。

  • Crossplane → インフラのコード化
  • ArgoCD → GitOpsの標準化
  • Istio → サービス間通信の統合
  • Prometheus → オブザーバビリティ
  • Helm → アプリ配布管理

「組み合わせて使ってこそ真価を発揮する」時代に突入しています。

KubeCon Japan

印象的だった4つのポイント

1. エンタープライズ導入が加速中

まだ多くの企業がコンテナすら導入していないという調査結果もありますが、導入を決断した企業は一気に“全部クラウドネイティブ”へと移行しようとしています。

2. 日本企業のイノベーション力

日本はCNCFへの貢献数で世界9位、アジア最多のCNCF認定プロフェッショナルを抱えるなど、世界レベルでの存在感を示しています。

日本はすでに実力以上の存在感を示しています:
・CNCFへの貢献は26.3万件以上 — 世界第9位
・アクティブなコミッターは約2,300人
・アジアで最も多いCNCF認定プロフェッショナル数

Japan Executive Briefing - Cloud_Infra

3. ゲーム業界はKubernetes活用の最先端

PlayStationの事例は、リアルタイム性と高い分散性が求められる最難関ワークロードでもKubernetesが対応可能であることを証明しています。

4. データが“発生する場所”で処理

データが“発生する場所”で処理するエッジコンピューティングはもう「未来」ではない。工場や船上といった予想外の場所でも、本番環境でKubernetesが稼働している現実に驚かされました。

今後10年の展望

  • マルチクラスター構成が標準に:ClusterProfilesやMulti-Cluster Services APIの進化で、複数クラスター管理が容易に。
  • AIがインフラの進化をけん引:GPU管理や推論最適化がKubernetesの“当たり前”に。
  • プラットフォームエンジニアリングの成熟:社内開発者向けプラットフォームが製品レベルに。
  • エッジの爆発的拡大:クラウド〜現場〜車両まで、Kubernetesがすべての制御プレーンになる時代が来る。

Aokumoとしての戦略的気づき

私たちのようなプラットフォームエンジニアリングチームにとって、KubeCon Japan 2025は以下の方向性を確信させるものでした:

  • GitOps(ArgoCD)の標準化を見据えて今から投資
  • 初期段階からマルチクラスターを前提に設計
  • AIワークロードへの対応は今後すべての基盤に不可欠
  • 日本型OSS貢献モデルは、実は競争力につながる

まとめ

KubeCon Japan 2025は、「クラウドネイティブの完成形」を示すイベントではなく、本当の意味での始まりを示す場でした。

満席の会場、業種を超えた多様なユースケース、日本企業からの質の高いOSS貢献――これらが示すのは、クラウドネイティブの時代がようやく動き出したという事実です。

次の10年、Kubernetesはあらゆるインフラの制御基盤となるでしょう。

ゲーム、公共インフラ、AI推論まで、それを見据えて今行動できる企業こそが優位に立つのです。

クラウドネイティブの導入状況について、最も驚いた点は何でしたか?

あなたの組織でも、同じような傾向が見られますか?

KubeCon Japan 2025に関するさらなるインサイトについては、マルチクラスター管理の標準化に関する技術的な解説記事や、AIワークロードにおけるKubernetesの活用分析もぜひご覧ください。